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Kwansei Gakuin University Athletics Department
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COLUMN

2021.11.26

米国学生スポーツ通信-No.2

先月に引き続きアメリカより「米国学生スポーツ通信」をお届けします。

こちらでは、アメリカンフットボールやバスケットボール等の冬のスポーツが始まり、学校を上げてチームを応援する雰囲気がキャンパス内に溢れてきました。

私も先日アメリカンフットボールの開幕戦を同級生と共に観戦し、(そういえばでしたが)渡米して初めて学生スポーツに触れることができました。

試合自体も面白いのですが、学生スポーツの観点の気付きもとても考えさせられるものが多くありましたので、別の機会にお届けしたいと思います。

前回お読み頂いた方は二回目となり恐縮ですが、当コラムは単にアメリカの学生スポーツを紹介するのではなく、

少しでも日本の学生スポーツはどうあるべきか?を、皆さんに考えて頂くキッカケとなれば良いなと思い寄稿していますので、日本と対比しながら、一緒に考えていければと思います。

本号〜次々号にかけて、皆さんにはまずザックリとアメリカの学生スポーツを理解して頂けるよう、「構造」、「大学」、「学生」の三点に絞り、噛み砕いて説明させて頂きたいと思います。

これらを抑えて頂くだけで、アメリカの学生スポーツの解像度がグッと増すと思います!


さて、今回はアメリカ学生スポーツの「構造」に触れたいと思います。

構造と言われても、何のイメージも湧かないと思いますので、分かりやすく噛み砕きながら説明させて頂きます(上級者の方には易し過ぎる内容となっています)。

順を追って説明しますが、アメリカの学生スポーツ組織は階層化されている点が特徴的で、上から「NCAA→ディビジョン→カンファレンス→大学と階層化されている」という点だけ覚えて頂ければ良いかと思います。


■NCAA

まず皆さんは、アメリカには大学各校が集い、組織された学生スポーツ横断組織があるのはご存知でしょうか?

NCAA(National Collegiate Athletic Association、エヌシーエーエー、エヌシーダブルエーと読みます)、という組織があり、アメリカ50州1,100の大学が加盟し(実はカナダやプエルトリコの一部学校も加盟)、約20,000チーム、約57,000選手、24種類のスポーツを統括する組織です。(似たような組織が他にもありますがNCAAが最大)

NCAA理念(Academics、Fairness、Well-being)に基づき、学生スポーツにおけるルール決め、リサーチ、情報の横通し、各校オペレーションの監督等が行われており、国会のようなものだとイメージして頂けると良いかと思います。

また、各校から代表者(学校・選手双方)を出し、学生スポーツの在り方、安全対策、奨学金等について定期的に議論し、学生スポーツの維持発展に努めており、非常にボトムアップな組織である点が特徴的です。

創設は遡ること1906年で、セオドア・ルーズベルト大統領時代に、アメリカンフットボールの試合で死亡者・負傷者が多発したことに端を発し、統一ルールを制定するために同大統領が各大学に促し組織されたものです。

■ディビジョン

その次にディビジョンというのは、NCAA所属大学をスポーツの規模で区別したものです。

同じ大学がスポーツを行うといっても、スポーツに力を入れたい学校もあれば、そうでもない学校もあり、

スポーツの規模に応じてDivision 1〜Division 3の三つに分類し、ディビジョンに応じてルール決め等を行い、原則同じディビジョン校同士で試合は行います。いわば入れ替えのないJ1・J2・J3みたいなものです。

学校の意向によりディビジョンは決められますが、当然レベルの高いディビジョンに所属するとなると所属条件(学校が支援するスポーツ数、消化試合数、奨学金規定等)は厳しくなるため、その条件をクリアしてまでスポーツに注力すべきかの学校の姿勢が問われることとなります。

(2021年2月現在)


■カンファレンス

そして最後に、カンファレンスは、そのディビジョンを更に地域軸に分けたもので、地理的に近い(といっても、アメリカなので範囲は相当広いですが)同士でカンファレンスという集まりを作り、カンファレンス内で試合を行います。分かりやすい例では、日本の東京六大学がこれに相当します。

カンファレンスにも大小あり、NCAAには約100のカンファレンスが存在していますが、アメリカの有名どころでは「Power 5」と呼ばれる、五つの強豪カンファレンスがあり、それぞれSEC、BIG Ten、Pac-12、ACC、Big 12があります。

詳細は割愛しますが、皆さんがイメージされるアメリカのド派手なカレッジフットボール等は、大体この中の大学です。(フォレスト・ガンプが作中でアメリカンフットボールをプレーしていたのは、SECカンファレンスのアラバマ大学です!)

ただ、学生スポーツといっても、規模は日本のプロスポーツよりも大きく、スポーツ関連売上高一位はテキサス大学の約255億円(2018-2019年)、アメリカンフットボール監督の最高年俸はアラバマ大学の約11億円(2020年)、スポーツ局長の最高年俸はルイジアナ州立大学の約2.7億円(2020年)、と桁違いの環境となっています。

<ペンシルバニア州立大学アメリカンフットボール>

アメリカの学生スポーツの集まりの最小単位はこのカンファレンスで、所属校はすべてのスポーツをカンファレンス内で行います。従い、まず各校はカンファレンスでの優勝を目指します。

そして、全国大会のある競技は、NCAA主催の下、NCAA National Championship(90大会)が開催されます。

特に、バスケットボールの全国大会が有名で、大会が毎年3月に行われることから「March Madness(3月の熱狂)」と名前がついています。日本でいう高校野球の甲子園とお考え頂ければイメージはピッタリです

このコンテンツは実にモンスター級で、年間1,100億円稼ぐNCAA収益の内、約80%をこのMarch Madnessから稼ぎ出しています(放映権料等)。アメリカンフットボールと並ぶ学生スポーツの最高峰といっても過言ではなく、開催都市の盛り上がりは100 億円の経済効果を生むとも言われています。

<デューク大学バスケットボール>


以上、アメリカの学生スポーツの構造について簡単に説明させて頂きましたが、続いて日本との比較に移ります。

日本も地域で集まり、試合を行うという点は類似点がありますが、開催形式はアメリカのような学校軸ではなくスポーツ軸で括られています。

要すれば、アメリカでは学校の集合体であるカンファレンスが大会・試合を取り仕切るに対し(学校軸)、日本では各競技団体(日本ラクロス協会、関西学生アメリカンフットボール連盟等)が取りまとめます(競技軸)。


ここが大きく分かれるポイントですが、皆さんはどうお考えでしょうか?

議論を後押しする参考例として、スポーツ軸とするか、学校軸とするかによって、主眼とする目的が異なってきます。

スポーツ軸は、まさに競技がメインとなってくるので、連盟・協会主導での競技力向上がメインとなり、簡単に言えば日本代表・オリンピック選手等を育成・排出し、世界でどう戦うが問われる世界となります。

一方、学校軸では、学校がメインとなるため、つまるところ学校がどうしたいか?が主体となり、例えば、学業とのバランス、スポーツ収益、宣伝効果、スポーツを通じた教育等、多岐に渡りますが、ただ一点この文脈に競技力向上は含まれません。

競技力を取るべきか、学校の意思を取るか、つまりは「スポーツを推進する主体はどこであるか?」について正解はないと思いますが、一番忘れてはいけないポイントは「スポーツを実際に行うのは学生」という点において、何が優先されるべきか?であると思います。

この点を現行体制が果たして学生がスポーツをする環境として最善であるかどうかを是非考えて頂きたいと思います。

なんとなく当たり前になっている構造(今で言えば、協会・連盟が大会・試合を執り行う)に対して、前提を違う目線から捉えてみると、また異なる見え方ができて面白いと思います。


ちなみにですが、私はというと、どうしても学校軸寄りのスタンスとなります。具体的には、

学生が自らの時間とお金を掛け、時には学業も犠牲にしながらスポーツに取り組んだ先には、個々人の学業・キャリアなどは全く考慮されず、学生の貴重な学生生活をスポーツだけに搾取されてしまう現行体制は直ちに改善されるべきと考えており、

学生がスポーツを通じて得る経験や成長を学校がしっかり認識し、学校が意思を持ってスポーツ活動に取り組む姿勢を持ち(経営資源をスポーツに配分する)、そういった学校が集い、力を合わせることが、今後日本の学生スポーツには必要であると思います。

だからこそ、大会・試合の開催形式については、学校軸での開催を将来的に検討していくべきであると考えています。


<プロフィール>

前川 友穂

関西学院大学商学部卒業後(在学中、体育会ラクロス部主将)、三菱商事株式会社に入社。船舶・自動車分野で、事業開発・トレーディング・ファイナンス・事業投資・戦略企画を幅広く担当。同社退職後、ファナティクス・ジャパン合同会社でのインターンを経て、米国コロンビア大学スポーツ経営学修士課程に進学。

Email:                 tm3187@columbia.edu

Linkedin:            https://www.linkedin.com/in/tomoho-maekawa-a65108112/

Twitter:               https://twitter.com/tomihonmimanofu